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仕事納め
一応昨日(29日)で仕事納めです。

朝からチーフフェローのM君とまたまた心臓移植。彼も随分慣れてきて順調に手術は終了しました。普通は左房、下大静脈、上大静脈、肺動脈、大動脈の順に縫ってから血流再開するのですが、今回は虚血時間が4時間くらいになりそうだったので、左房と下大静脈を縫ってから大動脈を吻合。そこで血流再開して心臓を拍動させたまま上大静脈と肺動脈を吻合しました。縫いにくくなるので最初はあまり気が進まなかったのですが、やってみたら大したことありませんでした。新しい事に対して消極的になるのは、悪い癖です。

昼からは87才女性の大動脈弁置換術。患者さんのたっての希望でMICS(小切開手術)です。
右冠動脈に狭窄があるのですが、それをバイパスしに行くと傷が大きくなるので、患者さんの同意が取れなかったそうです?? 最初は手術も拒否していたそう。
かなりの肥満体型。7cmの傷では大動脈弁に指がなかなか届きません。
普通の切開なら難なく終わるはずの手術ですが、散々苦労しました。
心臓手術にそんな厳しいリクエストをする87才の患者さんは日本にはあまりいないでしょうね。

チーフフェローを終了して休暇明けのA君が浮かない顔をしています。
全米の有名病院20施設以上にアテンディングポジションのアプリケーションを出して、半分くらい返事が帰ってきたそうですが、全て断られたとの事。
臨床面でもリサーチ面でも彼以上のキャリアを探すのは困難なくらいの経歴の持ち主ですが、そんな彼でもアカデミックポジションを獲得するのは、そう簡単ではないようです。
スタッフポジションの獲得はいくら本人に実力があっても、コネクションとタイミングが全てという所があり、「unfairや」とつぶやいていました。
まあまだ半年あるし、彼の事だからそのうち良い話が来るでしょう。

来年は2日から仕事です。
クリスマスにオンコールを取った替わりに、年末年始はフリーにしてもらっているので、家でゆっくりしたいと思います。
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by ctsurgeon | 2006-12-31 08:25
少し想い出話
クリスマスの当直後、少し体調を崩してしまいましたが、ようやく復活しました。
2人の移植患者さんの経過は順調です。

今日は珍しく自分の手術がないので、勝手に重役出勤です。
当直なので、ぶらぶらしながら時間つぶしてます。

暇なので、これまでのことを振り返ってみる事にしました。

アメリカに来たのは7年前になります。
日本で大学院生として研究をしていた時に、NYでの研究留学の話がありました。

その頃の自分は心臓外科研修中の中堅とはいえ心臓手術執刀経験はほとんど皆無で、同世代の仲間よりも遅れをとっていると感じていたので、早く臨床の現場に戻って手術のトレーニングを積みたいという焦りがありました。
留学とはいえ、臨床から離れてさらに2−3年研究生活を続けることは、正直大きな不安がありました。

留学を決めたきっかけの一つは、アルバイト先の病院でオーストラリア帰りの先生の冠動脈バイパス手術を見たことでした。
今まで見て来た手術と全く次元が違いました。いかに自分が井の中の蛙であったのかがわかりました。
「これは海外に行って修行せなあかん!」
とその時に強く思いました。

所属医局はそこそこの関連病院を持っていたので、下積みをしてうまく医局人事に乗れば徐々にポジションが上がっていって、そのうちどこかの部長にでもなって手術できるようになるだろうという気持ちもありましたが、そのような安全策で行ったら決してあのレベルには到達できないと思いました。
それに日本の現状では、大学院卒業後に市中病院に出張したとしても、3番手くらいで執刀する機会があまりないこともわかっていました。手術できるようになるまで、何年かかるかわかりません。

とにかくアメリカに行けば、チャンスはあるだろう。
しかしECFMG certificateもなく、向こうで臨床研修のポジションが約束されていたわけでもないので、渡米して3年のリサーチというのはある程度賭けのようなものでした。
「3年やって、むこうでチャンスがなければ心臓外科医あきらめよう」
と思っていました。

そういうリスクを背負っていたからこそ、渡米してから頑張れたのかもしれません。

研究室のボスに内緒でUSMLEの勉強をしたこと。(非常に厳しいボスで毎日の様に研究成果を監視されてました)
運良く臨床フェローのポジションを獲得したものの、最後のUSMLE step 3に落ちてしまい、茫然自失となったこと。
再度受けたstep 3の合格通知を一人で研究室の非常階段で開けて躍り上がって喜んだこと。(すでに臨床研修開始予定日を過ぎており、不合格なら採用取り消されるところでした)
などが思い出されます。

ずいぶん遠回りしたような気もしますが、これまでの決断は間違ってなかったと、やっと最近思える様になりました。

最近はインターネットで情報がすぐ手に入るので、医局人事に頼ることなく、いきなり海外の施設にアプライして臨床研修している人も増えてきました。
少し前では臨床留学の情報は人づてに聞くしかなかったので、そのような人が周りにいなければ、どこか遠い話だったのですが、最近はこのようなブログや掲示板で情報を簡単に共有できるようになりました。

そういう人たちの間でネットワークも出来つつあります。
医局以外のそういう横のつながりは、これから重要になってくると思うし、大事にしていきたいと思っています。
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by ctsurgeon | 2006-12-29 08:03
その後
クリスマスイブの移植手術は無事終了。
遠くのドナーで虚血時間が3時間半になり、心臓の立ち上がりが悪かったのですが、何とかうまくいきました。
控え室の家族に説明に行くと、大勢の人が。。
子供が10人もいるそうです。孫も入れたら何人いるかわかりません。
家族から取り出した心臓をもらいたいとの申し出がありました。
イスラエルに持ち帰って埋葬するそうです。

実は手術中に2例目の移植のオファーがあることを知りました。
今度は補助人工心臓を付けている人の心臓移植手術。
移植責任者のN先生が前立ちです。
1例目が終了して1時間後に手術開始して、終わったのは25日朝の9時。
癒着と術前服用していた抗凝固薬のせいで、結構大変な手術になりました。
前日朝から当直の締めが、徹夜の連続2件の心臓移植手術で、ヘロヘロです。

「ああやっと解放される」と思った手術終了間際に、何と3例目のドナーのオファーが。。
今年103例目の心臓移植手術です。
コーディネーターと電話で話しているN先生を見る目は少し涙目になってます。
麻酔科のドクターや看護師さん、人工心肺技師さんたちの視線もいっせいに彼に集まります。
クリスマスの日に緊急手術するよりは、家で家族と過ごしたいというのが、やはり本音です。

「アクセプトするわ。先生とM君(チーフレジデント)で手術してくれる? でも当直明けで大丈夫?」
「あ、、、はい。全然大丈夫。」
思わず座り込みそうになりました。

幸か不幸か3例目の移植手術は、その後優先順位の高かった他の病院のレシピエントに回る事になりました。
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by ctsurgeon | 2006-12-26 07:54
クリスマスイブ
今日は24日。病院当直です。
アメリカ人はクリスマスに対しての思い入れが強く誰も当直したがらないので、必然的に日本人の僕に回ってきます。

もう病院当直をする義務は免除されているのですが、当直料をもらえるのと、フェローの人手不足のために月に4−5回当直をしています。

うちの病院では胸部外科フェローの当直は、心臓呼吸器外科術後患者(ICU、一般病棟)だけでなく、別棟のBaby hospitalやER(救急)を含めた病院全体の胸部外科コンサルトを1人でカバーしています。開心術だけで2000例ある病院ですから、こう書くとさぞかし大変そうですが、幸いなことにICUや病棟には外科や麻酔科のレジデントがいて、彼らがfirst callを取ってくれるので、しょうもない事で呼ばれまくるという事はあまりありません。朝夕と簡単に回診して、彼らに必要な指示をするだけで、彼らが対処できないような問題が発生した時にコールされることになっています。

今日は朝からLVAD患者の閉胸。chest tubeを入れたり、回診したりしているうちに夕方に。
今夜の8時半ですが、新しくチーフレジデントになったM君と2人で、これから心臓移植手術をすることになっています。
レシピエントの患者さんはイスラエルから来た人で、とても敬虔なユダヤ教信者です。すでにオペ場の控え室には大勢の親族が集まっています。
聞けば、さらにたくさんの人が今飛行機に乗ってイスラエルから駆けつけているとのこと。
24日の夜9時半執刀開始。終わるのは25日になるでしょうから、大きなクリスマスプレゼントになりそうです。

それでは行ってきます。
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by ctsurgeon | 2006-12-25 10:23
NYのクリスマス(3)
NYの街だけでなく、一般の家でもクリスマスの飾り付けが奇麗です。
すごく気合いの入っている一角もあり、地元の観光名所になっています。


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↓ここまで来ると住宅というよりは、パチンコ屋かラブホテルのようです。いったい電気代いくらかかるのでしょうか?(残念ながらこの家は今年はイルミネーションが消えていました。他のサイトから写真借用しました)
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↓我が町の消防署もすごい事になっています。e0088460_12121613.jpg
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by ctsurgeon | 2006-12-18 12:33
チーフフェローの執刀数
早いものでチーフフェローのA君も今週で6ヶ月のチーフを終了します。
先週のカンファレンスで彼の手術経験の発表がありました。
年に2回、各フェローが経験した症例数(執刀数)を発表するのですが、メインイベントはやはりチーフのプレゼンテーションです。

ここで簡単にプログラムの説明をすると、2年間に成人心臓外科、小児心臓外科、呼吸器外科をローテートします。その順番は
1)成人心臓外科(3ヶ月):主に第一助手、開閉胸、カニュレーション、IMA。
2)小児心臓外科(3ヶ月)
3)呼吸器外科  (6ヶ月)
4)小児心臓外科(3ヶ月)
5)成人心臓外科(9ヶ月): 最後の6ヶ月はチーフフェロー。ほぼ100%執刀。

彼の症例数(15ヶ月の心臓外科のみ)を抜粋しました。

Total number of cardiac operations: 445(第一助手含む)

そのうち術者として執刀した症例の内訳は下のとおりです。

Total number of cardiac operations as surgeon: 348
(うちReoperations: 74)
Total number of cases by chief resident (6/8-12/7): 268

Aortic valve: 76
  AVR: 42
  AVR with CABG: 27
  AVR with root enlargement: 7

Aortic operation: 53
  Root replacement: 32 (with CABG 6. with Mitral surgery 8)
  Valve sparing (David): 8
  Hemiarch: 6
  Total arch: 7
  Thoracoabdominal: 1

Mitral valve: 62
  MV repair:  34 (with CABG 10)
  MVR: 28 (with CABG 7)
  (うちMVR/r + AVR: 13)

isolated CABG: 98
  (うちoff pump: 41)

その他:      59
  Heart transplant: 26
  VAD: 5
  Others: 21

348例の執刀症例のうち268例はチーフフェローの間の6ヶ月で経験しています。
再手術が74例と多いです。
弁膜症、大血管、バイパス手術、その他(移植など)、まんべんなくバランス良く経験していることがわかります。

それにしても半年間に250例以上の心臓手術を執刀させるレジデントプログラムなんて、日本では考えられません。
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by ctsurgeon | 2006-12-13 04:42
おまけ
前回投稿のおまけです。
中華街で食事したのですが、葬儀屋さんの隣で仏様グッズが売られてました。
お棺に一緒に入れるものだと思います。
ちょっと面白かったので写真のせます。

e0088460_1329080.jpgあの世に行っても麻雀は必須ですね。でも何で中華料理ではなくて寿司なんでしょうか?
e0088460_13291997.jpg女性用ですね。
e0088460_13294726.jpgあの世でも携帯電話。
「冥府電話」と書いてあります。何故か充電器も付いてます。
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by ctsurgeon | 2006-12-11 13:34
NYのクリスマス(2)
先週は急に寒くなって、やっと冬の到来かと思ったのですが、また暖かな週末です。
タイムズスクエアのゴスペルブランチというのに昼食がてら行ってきました。
かなり有名なゴスペルグループらしく、日本にも公演に来ているとか。
食事しながらということでしたが、さすが黒人パワー。いきなり皆総立ちです。

それから近くにあるブライアントパークに。
以前紹介した公立図書館の裏にあって、摩天楼に囲まれた奇麗なところです。
冬の間は無料スケートリンクとフリーマーケットで賑わっています。
クリスマスツリーもあって夜は奇麗です。

今までのブログ読み返してみると、何か遊んでばかりみたいです。
どうしても病院に拘束される日本と違い、OnとOffがはっきりしているので、休む時にはしっかり休めるのがアメリカの良い所です。

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e0088460_11443942.jpg左がNY公立図書館。
エンパイアステートビルもクリスマス色です。
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by ctsurgeon | 2006-12-11 11:58
MICS
先日ロボット手術のことを書きましたが、今回はMICS (Minimally Invasive Cardiac Surgery :低侵襲心臓手術)に触れたいと思います。

胸の真ん中を30cmくらい縦に切って、胸骨(胸板の骨)を2つにわって、胸を観音開きにする従来の方法(胸骨正中切開法)から、何とか傷を小さく、また胸骨を切らず手術できないかと、10年くらい前から色々なアプローチが考え出されました。
その代表的なのが胸骨を上半分、または下半分だけ切る方法(Hemisternotomy)、胸骨をまったく切らずに右(または左)肋骨の間を空ける方法(Minithoracotomy)です。いずれも7cmくらいの傷で手術できます。

傷が小さいと体に対する侵襲も小さいだろうということで、「低侵襲」という名前がつけられましたが、実際のところは美容上のメリットがほとんどです。しかし胸骨を全部切らないということから、心臓手術の一番やっかいな術後合併症である胸骨感染やSternal dehiscenceを予防できるメリットはあります。

うちの施設では色々なMICSをしているのですが、一番数多くしているのが、右小開胸による僧帽弁手術です(ASD,Myxomaなども同じアプローチです)。男性なら右乳首の下から外側に、女性なら乳房の下縁の溝にそって7−10cm皮膚を切開し、そこから手術します。日本では慶應大学病院がこの手術で有名ですが、彼らがハートポートシステムといった特殊な人工心肺システムを使っているのに対して、そういう特殊なシステムや内視鏡、特殊な結紮器具などを一切使わないのが我々のアプローチの特徴です。少し専門的ですが大動脈と上大静脈のカニュレーションは術野から、下大静脈は主に大腿静脈から尖刺で行ないます。

特別な手技、装置を極力避けるというのは、ルーティーンで手術をしていく為には結構重要なことですが、この方法だと普通の胸骨正中切開法と比べても大して時間がかかりません。普通の僧帽弁手術なら全部で3時間くらいで終わってしまいます。僧帽弁手術、成人ASDなどの9割近くはこのアプローチでしていて、僕自身も200例以上してきましたが、特に女性で乳房の大きな人は傷が完全に見えなくなるので、結構おすすめです。
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by ctsurgeon | 2006-12-10 01:27
ロボット手術
da Vinciという手術ロボットがあります。

患者の体内に3Dカメラとロボットアームを挿入し、術者は離れたところで3Dモニターを見ながらロボットアームを操作して手術するものです。従来の内視鏡手術と違い、ロボットアームに関節がついているので人間の手首のように自由に屈曲回転ができます。さらに術者の指の動きとロボットアームの動きの比率を調節できるので、マイクロサージェリーも可能となっています。
日本国内にも数台あるようですが、うちの施設はこのロボット手術にかなり力を入れており、全米初のロボットを使った開心術をして以来、これまでに200例近く行ってきました。
かくいう僕もロボット、低侵襲手術のスペシャリストということになっています。

しかし、この数年あれこれ使ってみたのですが、実際使った感じとしては、まだまだです。
僧帽弁修復術、心房中隔欠損(ASD)修復術、メイズ手術、MIDCAB(左小開胸で行うオフポンプバイパス手術)の内胸動脈グラフト取り、など色々試したものの、結局今も続けているのは内胸動脈グラフト取りくらい。あと、胸部外科がたまに胸腺摘出術、食道切除に使っていますが。。

理由は、とにかく面倒くさい。時間がかかる。僧帽弁の手術などはクオリティーの点で疑問など。僧帽弁やASDの手術は、7cmの傷で(右小開胸)で、短時間で簡単確実にできるので、最近はそっちの方ばかりしています。

もっとも泌尿器科手術ではこのロボットは大活躍。日本で内視鏡手術で騒動をおこした前立腺摘出手術は、ほぼ全例このロボットを使っているようです。手術時間も2時間くらいで終わってしまうとか。

カンパニーも色々改良を加えているみたいなので、今後また適応が広がる可能性はあります。
低侵襲心臓手術の話は次の機会に。

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by ctsurgeon | 2006-12-07 05:41