2007年 04月 29日 ( 1 )
手術の鉄人
昨日は久しぶりに教授の手術のアシストをしました。
クリントン前大統領のバイパス手術も執刀したこの教授、50代後半ですが未だに年間400例近くの心臓手術をバリバリこなしています。
レジデントに執刀させずに自分で手術してしまう事が多いので、彼の手術に入りたがらないレジデントが多いのですが、さすが手術の達人だけあって彼の手術を見て学ぶ事も多いです。

昨日の手術は圧巻でした。
1年前に大動脈基部置換術をした患者さん。グラフト感染による出血から巨大な仮性動脈瘤のために再手術を受けることになりました。CTでは心臓と同じくらいの大きさの瘤が胸骨に完全にくっついており、エコーでも瘤内部にアクティブに出血している様子がわかります。

まともに胸を開けにいったら大出血で修羅場になるのは目に見えているので、まず経皮的に人工心肺にのせて冷やしてから開胸、剥離をしました。瘤の内部に入ったとたんに予想どおり大量出血。人工心肺を止めて完全循環停止にしてからグラフト周囲の血腫を取り除いて見たら思わず絶句しました。感染によって左右の冠動脈ボタンの吻合が殆どちぎれており、グラフト遠位吻合も裂けています。組織は感染でモロモロになっており炎症による癒着で周囲組織とのオリエンテーションが全くつかないような状況でした。

今までエグイ症例はたくさん見てきたけど、今回は最悪の部類で正直手術不可能だと思いました。僕にはどう手をつけて良いか見当がつきません。この患者さんはこの手術室で命を落とすかもしれないと思いました。

百戦錬磨の彼も一言
「Holy Shit!」
と呟いたまま1分くらい何もせずに考えていました。

でもそこからが凄かった。
取り憑かれたように手が動きだし、結局再大動脈基部置換術と僧帽弁置換術を完遂。手術時間9時間(人工心肺時間6時間半)におよびましたが、出血もせず経過も順調です。

技術的にも凄かったけど、何よりもあの絶望的な状況で諦めずに全能力を傾けて手術を完遂する精神力と集中力に感心しました。心臓手術はいったん心臓を止めて心臓を開けてしまうと、どんな悲惨な状況でも制限時間以内に手術を成立させないと患者さんが目の前で死んでしまいます。撤退することが許されない状況で困難に立ち向かうのは、患者さんの命を預かっている以上当たり前の事ではあるけど、口で言うほど簡単ではありません。少なくとも今の自分に同じ事ができる自信はないし、その点ではまだまだ未熟なんだなと痛感しました。

でもこういう手術を1件アシストするのは、普通の手術を10件執刀するよりも価値があります。
夜中の緊急大動脈解離の手術のため徹夜の当直明けでフラフラになりながらの手術でしたが、なぜか充実感がありました。
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by ctsurgeon | 2007-04-29 04:18