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補助人工心臓の功罪
3ヶ月前に補助人工心臓(LVAD)を入れた患者さんがいました。
術後重篤なポンプ感染を繰り返し、あらゆる治療を施しましたが、心臓移植やポンプ交換も含めてこれ以上の治療は不可能という結論になりました。

本来なら生存が全く不可能なほどの重篤な状態でも、人工心臓を入れれば患者さんの生命をつなぎ止める事が可能になり、多くの患者さんがその恩恵に預かっています。
しかし逆に言えば人間の尊厳を貶めるようなmiserableな状態になっても、なお人工心臓によって生かされ続けるという皮肉な状況になることもあります。
人工心臓を入れる事によって、患者さんに出口の無い苦しみを与えることにもなりかねません。

この様な事を避ける為に、人工心臓の手術適応は慎重に吟味されます。
手術するからには明確な目的があり(心臓移植までのつなぎか、永久使用か、心機能の回復を目指すのか)、不幸にもその本来の目的を達成出来ないとわかった時、人工心臓をはずす事もあります、という文面に患者さんは手術前に署名しています。

この患者さんについては、医学的に回復できる可能性がないと判断された時から、人工心臓を止める事に対する議論が何度も繰り返されてきました。
精神科医やEthicsの人たちも入り、家族や本人ともに今後の治療について話し合いがされてきましたが、今日患者さん本人に説明して同意を得た後に、人工心臓のスイッチが切られ、ほどなく患者さんは亡くなられました。
スイッチを切れば確実に自分は死ぬということがわかってながら同意した患者さんの気持ちを考えると、非常に重く悲しい気持ちになります。

高度先端医療が抱える矛盾の一端を見たような気がします。
医者がこんな事を言っていいのかわかりませんが、人間は自然に死ねるのが一番だと思います。
by ctsurgeon | 2007-03-10 13:40
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