Aprotinin
アプロチニン(トラジロール)という蛋白分解阻害剤があります。
心臓外科では特に再手術や大血管手術の際の止血コントロールのために良く使われていた薬剤です。

まれにアナフィラキシーショックを起こす事が有り、今週の症例(胸腹部大動脈瘤手術)でも重篤なショック状態になり、大変な状況になりました。その他にも腎不全や脳梗塞のリスクを高めるとの報告があったのですが、それ以上に優れた出血抑制効果があるという肯定的な論文が大勢を占めていて(僕の経験からも止血効果はかなりあるような印象でした)、うちの施設でも良く使っていました。

ところが今年の1月に臨床医学で最も権威のあるThe New England Jounal of Medicineという雑誌に、アプロチニンによって重篤な合併症が起こる確率が高くなるため使用は控えるべきであるという報告がなされました。

この論文のインパクトはものすごく、論文発表のその週のうちにYahooで「trasylol」「aprotinin」を検索すると、医療訴訟を促す弁護士事務所の広告がずらっと並ぶようになりました。これでは恐ろしくて中々使えません。
うちの施設でもその後使用症例が半分以下になったと思います。
メーカーも必死に反論を試みているようですが、なんせ一番権威のある雑誌ですから状況を変えるのは中々難しいようです。

アプロチニンの効果と危険性に関しては、それまでたくさんの肯定的な論文が出ていたのにもかかわらず、たった一編の否定的な論文が状況を一変してしまった例です。

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by ctsurgeon | 2006-11-12 11:29
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