アメリカと日本の研修システムの違い
日本の心臓外科研修システムが問題になっているようですが、アメリカと日本では本質的に手術トレーニングに対しての考え方が違うような気がします。

日本の心臓外科施設の平均心臓手術数は年間100例足らずです。そこに外科医は最低3人はいます。週1−2例の心臓手術はトップの部長がすることが多いため、若手に執刀機会が回ってくる事は少なく「見て覚えろ」と教育されます。そうやって助手として下積みを積みながら徐々に執刀機会を増やして行き、10年くらいして部長になってようやく主任術者として手術をする(そこまで到達出来ない人も多いですが)、というのが良くあるストーリーです。料理人が皿洗いから始まって、下ごしらえ、そして包丁を持つ機会を徐々に増やして行きながら成長して行くのと同じで、まあ昔ながらの丁稚奉公の社会です。

それに対してアメリカでは2−3年のレジデント期間が終われば、いきなり主任術者(アテンディングサージャン)として独立しなければなりません。日本の様に2番手、3番手という順序は無く、アテンディングかレジデントかという分類しかありません。アテンディングは院内開業のようなもので、自分がする手術に対して個々に手術手技料をもらっているので、同じ施設内でも彼らは独立して手術しています。そのため独り立ちできる術者を短期間の研修で養成する必要がある訳です。とにかく多くの症例を短期間にこなして「やって覚える」ことが重視され、レジデントも手術を執刀することがトレーニングを受ける者としての権利という意識があります。アメリカ的な物量作戦です。

具体的に書くと、うちの施設は年間1400例の成人心臓手術に対してレジデントはシニアを含めて4人です。成人心臓外科をローテートする1年のうち最初の3ヶ月はPAを相手に一人で開胸、内胸動脈採取、人工心肺装脱着、閉胸ができることが目標になるので、ほとんど第一助手なのですが、(たった3ヶ月のトレーニングでそこまで一人でさせることも日本では考えられませんが)、それが終わると執刀する機会が急激に増えていきます。特に最後の6ヶ月はチーフレジデントとして毎日最低2例の心臓手術をほぼ全例執刀する権利が与えられています。その半年間で250例くらいの手術を集中的に執刀するわけです。見た事も無い初めての手術でも、アテンディングが横について指導しながらとにかく術者として手術を執刀します。そのような恵まれた環境ですから、助手について見て覚えるという意識が少し薄い様な気がします。

それだけ集中して毎日手術すれば、よほど不器用でない限りある程度手術はできるようになります。でも人の手術を「見て覚える」という意識が薄い人とそうでない人とではそこで差が出てくる様に思います。普段から手術に飢えていて、仕方なく「見て覚える」習慣が身に付いている日本人若手心臓外科医がアメリカと同じシステムで研修を受ける事ができれば、そのほとんどが彼らに負ける事はないと思います。実際アメリカで外科の臨床レジデントを経験している日本人の多くが高い評価を受けているのは、その現れだと思います。

アメリカといっても自分のいる施設しか知らないので実際は違うかもしれませんが、まだ閉胸も満足にできないアメリカ人ジュニアレジデントが「手術の執刀症例が回ってこない」と文句を言っているのを聞いて、何となく上のようなことを感じました。
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by ctsurgeon | 2006-09-24 23:48
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